大丈夫か日本!? 欧米有力者たちから政策能力が疑われている高市政権

ベッセント米財務長官は高市首相と15分間の会談をした。2026年5月12日(官邸ホームページから)
マーケットの伝説、ベッセント長官が降臨
スコット・ベッセント米財務長官が11~13日に来日し、高市早苗首相や片山さつき財務相、茂木敏充外務相、赤沢亮正経済産業相ら日本の閣僚たちと相次ぎ会談した。
メディアでは一連の会談は友好的におこなわれ、ほぼ表敬に近いものだったように報じられている。日本の財政や日本銀行の金融政策については特段の注文はなかったというのだ。本当にそうか。
さすがに新聞記者時代には取材の裏付けもないことは書けなかったのだが、ここではベッセント訪日の意味をやや大胆に推測してみたい。
仮に会談で明確な言葉での指摘がなかったとしても、ベッセント氏が「積極財政」や「日銀の遅すぎる利上げ」に警報を出さなかったはずはなかろうと私は思っている。高市首相にも、片山さつき財務相にも、それとわかるニュアンスで政策の是正を求めたはずだ。
なぜなら、超多忙の米財務長官が、極めて重要なイベントである米中首脳会談に同席する前にわざわざ日本に立ち寄ることなどするだろうか。いくら過去に何十回もの訪日経験がある親日家のベッセント氏だとしても、表敬ていどの意味しかない会談のために、このタイミングで3日間も浪費することなど考えにくい。
12日の高市・ベッセント会談についてメディアはこう報じた。
首相は12日、来日したベッセント財務長官の表敬を受け、15分ほど話した。米中首脳会談を前に日米で認識を擦り合わせる狙いがあった。ベッセント氏は表敬後、記者団に、首相から中国に関連した具体的な要望があったかを問われ「ノー」と説明した。外務省幹部は「今回は財務相同士のやり取りが重要だった」と話した。
台湾を巡る自身の「存立危機事態」発言で日中関係がぎくしゃくするきっかけになった高市首相は、米中首脳会談での日本の取り扱いについて米側と息を合わせておきたかったのかもしれない。だがベッセント氏の関心はそこにはなかった。外務省幹部の言う通り、「片山財務相との会談が重要」だったのだ。当然、テーマは財政と金融政策になるだろう。
高市首相との会談を終えたベッセント氏は官邸ロビーで待ち構えていた記者団に囲まれ、金融政策を巡って首相に要望したかと聞かれ、「ノー」と答えた。日本の為替介入については「過度な変動は望ましくないとの認識で一致している。(日米当局は)緊密に連絡を取り続けており、今後もそうしていく」と一般論としての説明にとどまった。
こうした型どおりの受け答えは、官邸を表敬したベッセント氏が儀礼的に発したものだろう。わざわざこのタイミングで日本に立ち寄った意味は語っていないことにある。おそらく「債券市場や外国為替市場での不穏な動きに気をつけろ」いうメッセージを念押しすることだったと見るべきだ。
ベッセントという人物、只者ではない。もともとは著名投資家ジョージ・ソロス氏の右腕としてソロス・ファンドを取り仕切っていた最高投資責任者である。
両氏をよく知る投資コンサルティング会社共同代表の齋藤ジン氏が、自身のベストセラー『世界秩序が変わるとき』(文春新書、2024年)で明らかにしている。ベッセント氏は「アベノミクス相場」と言われる2012年秋に巨額の円売りを仕掛け、10億ドルの利益をたたき出した米金融市場で伝説の人なのだ。
そのベッセント氏がいま世界の市場を混乱させかねない火種として意識しているものの一つが、日本の国債と円だということは疑いようがない。前回のレターにも書いたように、ベッセント氏は1月のダボス会議で、日本国債の動向について、かなり激しい言葉で日本側に警告を発している。
米メディアの取材に対し、「(日本国債は過去2日間で)6シグマの価格変動があった」とわざわざ述べている。「6シグマ(6標準偏差)」とは市場用語で「ありえないほどの価格変動」を意味する相当激しい表現である。
ダボスでは片山財務相と会談した。この会談は日本サイドからは発表がなかったが、ベッセント氏がわざわざ明らかにした。そのことからも察しはつく。氏はそこで日本国債の価格急落(長期金利の急上昇)が米国債市場に不測の影響を与えかねないから気をつけろ、と日本側にクギを刺したのだ。
ブルームバーグの報道によると、その時、ベッセント氏は片山氏に矢継ぎ早に論点を示し、同席した日本側の事務方が内容を書き留めるのに追いつかないほどだった。意見交換というより「叱責」に近かったという。
片山氏はこの会談について詳細を語らない。ただ、この日を境に高市政権のスローガン「責任ある積極財政」について、「プロアクティブ(先を見越したもの)であってエクスパンショナリー(拡張的)ではない。市場の皆様には落ち着いていただきたい」という説明をするようになった。これは注目に値する変化だ。「積極財政」より「責任ある財政」に運営の重心を移し始めたのである。
その数日後、外国為替市場で大きく円が売られた際、日本の財務省は単独介入ではマーケットに勝てる保証がないと、介入に二の足を踏んだ。そこへ市場への「レートチェック」という形で口先介入し、救ってくれたのが米当局だった。ベッセント氏が助け舟を出したのだ。
これは氏が大の日本好きだからやってくれたわけでは、もちろんない。米国もトランプ関税や対イラン戦争による財政悪化で財政が火の車である。米国政治は今や、かなり不安定となっており、ドルと米国債も薄氷の上を歩いているような危うい状況にある。
中東などでの火の粉を払いながら慎重に運営しなければならない米国の財政政策。その指揮をとるベッセント氏にとって、少なくとも「日本発」で不測の事態を引き起こすようなことだけはしてくれるな、というのが本音なのではないか。
「特に言われなかった」片山財務相の弁明の読み解き方
後半では、高市政権の政策を批判する著名学者を経済財政諮問会議に招待してしまったエピソードを紹介しています。批判されることが嫌いな高市政権で、なぜそんなことが起きてしまったのでしょうか。